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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)117号 判決 1996年10月30日

東京都港区三田3丁目11番36号

原告

エス・オー・シー株式会社

代表者代表取締役

蟻川浩雄

訴訟代理人弁護士

大場正成

尾﨑英男

滝井乾

同弁理士

田中英夫

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

大澤孝次

遠藤政明

及川泰嘉

伊藤三男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成4年審判第5647号事件について、平成6年3月18日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和62年10月1日、名称を「チップヒューズ」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、実用新案登録出願をした(実願昭62-149330号)が、平成4年1月31日に拒絶査定を受けたので、同年4月2日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成4年審判第5647号事件として審理したうえ、平成6年3月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月25日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

耐熱絶縁材料から成り、角柱体の形状を有し、その長手方向の両端面間を貫通する孔を有し、前記両端面に接しかつ互いに対向する側面上の対角線上の各々の位置に切り欠き凹部が形成されている本体と、

前記孔に対角線状に架張される可溶体であって、その各端が前記両端面に沿って折り曲げられかつ前記凹部に係止されている可溶体と、

角形形状の前記両端面に嵌挿されるように断面形状が前記両端面の角形形状と実質的に同一である凹部を有し、嵌挿されたとき前記両端面と前記凹部の底面間で前記可溶体の前記端を機械的に固定しかつ自身と電気的に接続する導電性端子部であって、プリント基盤に対して面実装されるために設けられた4つの平らな側面を、導電性端子部が前記本体に嵌挿された状態における前記本体の長手方向に沿って有する導電性端子部と、

を備え、かつ前記可溶体の各端で前記本体の各端面と前記導電性端子の凹部の底面間で機械的に固定される部分が所与の長さを有するように、前記両端面が前記両端面上の前記切欠き凹部の縁部と前記両端面上の前記孔の縁部との間に所与の幅を有する

ことを特徴とするチップヒューズ。

3  審決の理由

審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本願考案は、実願昭49-33639号(実開昭50-123830号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」といい、そこに記載された考案を「引用考案」という。)及び周知慣用の技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法3条2項の規定により登録を受けることができないと判断した。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、引用考案の認定並びに本願考案と引用考案との一致点及び各相違点の認定は認める。

しかしながら、審決は、上記相違点の他になお相違点があることを看過し(取消事由1)、相違点(1)及び(2)についての判断の誤り(取消事由2)、相違点(3)についての判断も誤った(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(相違点の看過)

本願考案では、角形形状の本体両端面に嵌挿されるように導電性端子部の断面形状が前記両端面の角形形状と実質的に同一である凹部を有するのに対し、引用考案では、円形形状の本体(管体)両端面に嵌挿されるように導電性端子部(口金)の断面形状が前記両端面の円形形状と実質的に同一である凹部を有するから、この点で相違する。

被告は、審決において上記の相違を相違点(2)として認定している旨主張するが、相違点(2)では、本体が角柱体であることと導電性端子部が平らな側面を有することが単に別々に相違点として認定されているだけで、本体と導電性端子部の形状の関連性(組合せ)から生ずる相違点は全く看過されている。本願考案の引用考案にない作用効果は、この組合せの構成によって生ずるものである。

審決は、この相違点を看過したために、相違点についての判断を遺脱し、本願考案の進歩性についての判断を誤ったものである。

2  取消事由2(相違点(1)及び(2)についての判断の誤り)

(1)  本願考案は、プリント基板のランド(基板上に印刷された電子部品を搭載するための電極部分)の上に直接表面実装される超小型で簡単な構造のヒューズであるチップヒューズに関するものであるが、チップヒューズをプリント基板に直接装着する際には、プリント基板の捩れによりチップヒューズの両端部においてその断面方向の回転応力がかかり、可溶体が破断しやすいという技術課題があるところ、本願考案においては、チップヒューズに加わる回転応力に対して可溶体が破断しないようにしたチップヒューズを提供することを目的として(甲4号証2頁8行~3頁20行)、本願考案の要旨記載の構成を採用したものである。

これに対し、引用考案の円筒形管ヒューズは、本願考案のチップヒューズのようにプリント基板に直接装着されて使用されるものではないから、前記の回転応力により可溶体が破断しやすいという問題及びこれを解決しようとする技術課題は存在しない。

したがって、引用考案の円筒形管ヒューズの技術を、本願考案のチップヒューズに転用することは、きわめて容易に想起できるといえないことが明らかであり、これを容易に想起できるとした審決の判断(審決書7頁2~7行)は誤りである。

(2)  角柱体の形状を有するチップヒューズが周知であること及びプリント基板面実装用チップ部品において、面実装されるための平らな4つの側面を導電性端子が有する点が周知であること(審決書7頁8行~8頁2行)は、いずれも認める。

しかし、本願考案は、単に本体が角柱体形状を有する構成や、導電性端子がプリント基板に対し面実装されるための平らな4つの側面を有する構成を寄せ集めたものではなく、超小型で簡単な構造のチップヒューズを構成する上で、本体が角柱体形状であるとともに、その両端面に嵌挿されるように断面形状が実質的に同一である凹部を有する導電性端子部が存在することによって、プリント基板実装時に生じる回転応力に対し可溶体が破断しやすいという技術課題を解決しているのである。

これに対し、引用考案は、本体(管体)に可溶体引出し溝及び通し溝並びにはんだ溜りを設けることにより、従来の単なる円筒形の管体に比べ口金装着の不具合を防止しようとする技術課題を有するものであり、本願考案のような上記技術課題を有するものではない。

したがって、引用考案の円筒形管ヒューズの技術を本願考案のチップヒューズに転用するに当たり、上記周知技術を採用して、本体が角柱体形状を有し、導電性端子がプリント基板に対し面実装されるための平らな4つの側面を有するチップヒューズを構成することは、容易に想到できるものではないから、審決の判断(審決書8頁3~11行)は誤りである。

3  取消事由3(相違点(3)についての判断の誤り)

審決は、相違点(3)を判断するについて、引用考案では、「特に、可溶体が管体端面と口金とに圧迫され切断や変形を来たすことを防ぐため、可溶体を管体端面の可溶体溝にて引き出し埋設する構成としているが、一般的には、管体端面と口金の凹部底面間で可溶体の端を圧接し機械的に固定しかつ電気的に接続するのが慣用技術である」(審決書8頁13~19行)から、引用考案において、「前述の慣用技術に従って、管体端面の可溶体溝を省略し、本願考案のように管体端面と口金の凹部底面間で可溶体の端を圧接し機械的に固定しかつ電気的に接続するよう構成することに格別な困難性は認められない。」(審決書9頁6~10行)とし、引用例(甲第5号証)の図面第1図記載の引用考案の管体端面の可溶体引出し溝a(以下、審決に従い、「可溶体溝」という場合がある。)を省略した場合、引用例の「第2図を参照すると、本体の両端面上の溝部の縁部と両端面上の孔の縁部との間に一定の幅が存在することになる」(審決書9頁12~14行)とする。

しかしながら、引用考案においては、可溶体溝、はんだ溜りb、可溶体通し溝cを有することを特徴としているのであるから、可溶体溝を省略することは引用考案の技術内容を恣意的に歪めるものであって、許されない。

また、「一般的には、管体端面と口金の凹部底面間で可溶体の端を圧接し機械的に固定しかつ電気的に接続するのが慣用技術である」ことは認めるが、審決が慣用技術の根拠として摘示する各公報類(甲第13~第16号証)が示すように、上記慣用技術はチップヒューズに関するものではなく、ヒューズホルダーに装着される円筒形ヒューズに関するものである。これらの円筒形ヒューズでは、本願考案のような可溶体の寸法に比べ寸法の大きい、幅のある端面を有する管体と口金で可溶体を挟持するという技術思想が存在しないので、上記慣用技術に基づき、円筒形ヒューズである引用考案において、管体端面の可溶体溝を省略したとしても、管体の肉厚は変わらず、可溶体は口金と本体との間で一点挟持されることに変わりはなく、本願考案の「所与の幅」が開示されていることにはならない。したがって、審決の、引用考案の可溶体溝を省略した場合、管体端面上に一定の幅が存在することになるとの認定は誤りである。

さらに、審決は、本願考案において、両端面上の切欠き凹部の縁部と孔の縁部との間に所与の幅を有する点が、出願当初の図面第2図、第3図のみを根拠として平成4年5月1日付け手続補正書(甲第4号証)により加えられた事項であることを理由に、上記第2図、第3図を根拠としては、本願考案の「所与の幅」と引用考案の「一定の幅」との間に差異は認められないと認定している(審決書9頁17行~10頁4行)。

しかしながら、従来の円筒形の本体がガラス管からなるヒューズでは、ガラス管が薄いため可溶体は一点で管の端に挟持されているのに対し、上記第2図、第3図では明らかに可溶体が幅のある端面によって挟持されていることが開示されている。そして、このことから可溶体のはんだの溶着強度が増し、外力に対し強度を持たせることができ、本願考案のチップヒューズに回転応力が加わった時に、幅のある端面によって挟持されている可溶体は破断されにくいという作用効果を奏することが示唆されている。したがって、本願考案における「所与の幅」とは、回転応力による可溶体の破断を防ぐことの可能な、従来の一点での挟持に比べて広い幅の存在することを意味すると解するべきである。したがって、審決の上記認定は誤りである。

また、審決は、本願考案の切欠き凹部が引用考案の可溶体溝を省略したものと認定していると解されるが、引用考案のはんだ溜りbは、はんだを溜めて本体(管体)、可溶体、導電性端子部を固着する役目を果たし、可溶体通し溝cは、これにより断面積の大きな可溶体でも無理なく架張できるという役目を担うものであるところ、本願考案の切欠き凹部は、角柱本体内へ架張した可溶体の端部を外部へ引き出す際に可溶体を傷つけないためのものであり、はんだを溜めるという役目はないから、引用考案の可溶体溝を省略したはんだ溜りb及び可溶体通し溝cは、本願考案の切欠き凹部にはならない。

以上によれば、引用考案において、上記慣用技術に従って、管体端面の可溶体溝を省略することは許されず、仮に省略したとしても、本願考案のように、管体端面と口金の凹部底面間で可溶体の端の所与の長さを圧接し機械的に固定しかつ電気的に接続するような構成にはならない。

したがって、審決の相違点(3)についての判断は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。

1  取消事由1について

審決は、本願考案と引用考案における導電性端子部の構成のうち、本体「両端面に嵌挿されるように断面形状が前記両端面の形状と実質的に同一である凹部を有する」点を一致点と認定したうえ、本願考案では本体両端面の形状が角柱であるのに対し、引用考案ではその形状が円柱である点で相違する(相違点(2))と摘示している。そして、本体両端面の形状が角柱であれば、それに嵌挿される導電性端子部の凹部は角柱形状となり、両端面の形状が円柱であれば、導電性端子部の凹部は円柱形状となる。

したがって、審決に原告主張の相違点の看過はない。

2  取消事由2について

(1)  円筒形管ヒューズに関する技術であってもチップヒューズに関する技術であっても、小型ヒューズとして共通する基本的要請に関わるものであれば、当業者は採用できる範囲で転用しようと考えるのが通常である。

引用考案の円筒形管ヒューズの技術思想は、可溶体の管体及び口金への取付け構造により可溶体の支持を確実にし安定した品質のヒューズを提供することにあり、このような技術思想は、チップヒューズにも共通するヒューズとしての基本的要請に関わるものであるから、これをチップヒューズに転用することは、当業者であればきわめて容易に想起できることである。

(2)  審決では、周知事項として、チップヒューズにおいて、角柱体の外形形状を有するものがよく採用されること及びチップ部品において、面実装されるための平らな4つの側面を有する導電性端子がよく採用されることを、それぞれ公報類(甲第6~第8号証及び第9~第12号証)をあげて例示したものである。これらの文献は、上記の周知事項が、原告の主張するような技術課題の存在に関わりなく、採用できる構造であることを示唆している。

したがって、引用考案のヒューズをチップ化するにあたり、本体(管体)の外形形状を角柱にし、導電性端子(口金)を平らな4つの側面を有する構成とすることは、引用考案の「導電性端子(口金)が本体(管体)両端面に嵌挿されるように断面形状が前記両端面の形状と実質的に同一である凹部を有する」という技術思想を損なうことなく、そのまま採用できるものであって、格別困難性を伴うものではない。

なお、基板実装時の回転応力による可溶体の破断の防止という技術課題については、本体(管体)の外形形状を角柱にし、導電性端子(口金)を上記のような側面を有する構成とすることによって、当然予測し得る範囲内の事項であり、このことは、出願当初の本願明細書(甲第2号証)に上記技術課題が記載されていないことからも明らかである。

以上によれば、審決の相違点(1)及び(2)についての判断は正当である。

3  取消事由3について

審決認定の「一般的には、管体端面と口金の凹部底面間で可溶体の端を圧接し機械的に固定しかつ電気的に接続するのが慣用技術である」(審決書8頁16~19行)ことは、原告も認めている。この慣用技術を引用考案に適用すると、可溶体溝が省略され、本体端面に圧接固定のための一定の幅、すなわち所与の幅を生ずることは明らかであるから、可溶体は一点で挟持されるわけではない。

原告は、本願考案において「所与の幅」が可溶体の寸法に比べて大きな寸法の幅であると主張するが、本願明細書(甲第2~第4号証)にそのような記載はない。引用考案において「可溶体溝」を省略すると「可溶体通し溝c」が残り、これが本願考案の「切欠き凹部」に対応することになる。

したがって、原告の主張は失当である。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点の看過)について

本願考案と引用考案とにおける導電性端子部の構成が、審決の一致点の認定のとおり、「前記両端面(注、本体の長手方向の両端面)に嵌挿されるように断面形状が前記両端面の形状と実質的に同一である凹部を有し」(審決書5頁12~13行)との点で一致することは、当事者間に争いがない。また、本願考案の本体の長手方向の両端面(以下、「本体両端面」という。)が角形形状であり(同2頁15行)、引用考案の本体両端面が円形形状である(同4頁10行)ことは、当事者間に争いがない本願考案の要旨及び審決認定の引用例の記載事項のとおりである。

このことからすると、審決が、上記一致点の認定を前提とし、本願考案と引用考案との相違点(2)として、「本願考案では、本体が角柱体であり、導電性端子部が、プリント基板に対して面実装されるために設けられた4つの平らな側面を有するのに対し、前記引用例1(注、引用考案)では、本体が円柱体であり、導電性端子部が平らな側面を有していない点」(同5頁20行~6頁4行)と認定しているのは、正に、本体と導電性端子部の形状の関連性(組合せ)から生ずる相違点を認定していることにほかならず、この点に、原告主張の相違点の看過はない。

したがって、相違点の看過があることを前提とする原告の取消事由1の主張は採用できない。

2  取消事由2(相違点(1)及び(2)についての判断の誤り)について

(1)  本願明細書(甲第2~第4号証)には、「従来のチップヒューズは、その本体の形状が円形の管状であり、可溶体と外部回路とを電気的接続するため円形管状の本体の両端に嵌挿される口金端子部の凹部の断面形状も円形である。・・・従来のチップヒューズでは、口金端子部の凹部の円周方向に対し、滑らかで引っ掛かりがないため本体に対して回転し易く、そのため口金端子部の凹部の底面と円形管状本体の端部間に挟持されている部分の可溶体は破断が生じ易いという欠点があった。また、本体は管で構成されており、その管の厚みが薄いため、該管の端に挟持されている可溶体は面的に挟持されず、一点で挟持されているので、上述のような回転応力がチップヒューズに加わると、可溶体の破断を助長し易かった。従って、本考案は、上記欠点に鑑み、チップヒューズに加わる回転応力に対して可溶体が破断しないようにしたチップヒューズを提供することを目的とするものである。」(甲第4号証2頁11行~3頁20行)との記載があることが認められる。この記載によれば、従来の円形管状のチップヒューズは、可溶体の破断が生じやすいという欠点があるものの、チップヒューズとして一般的に使用されてきたこと、これに対し本願考案は、上記欠点を解消し、回転応力に対して可溶体が破断しないようにしたチップヒューズの提供を目的としたものであることが明らかにされている。

また、引用例(甲第5号証)には、「管形ヒューズにおいて、・・・従来のものは管体は単なる円筒形であるため、次に示す如き製造上の問題点があった。・・・可溶体は管体端面と口金とに圧迫され切断や変形を来す恐れがあり、更にはめあい隙間過大による口金の接着不良の可能性が大である。本考案は上記の欠点を除去し、常に安定した品質のヒューズを製作するために考案されたものである。」(同号証明細書1頁11行~2頁7行)との記載があることが認められ、これによれば、従来の管形ヒューズの問題点として、可溶体が管体端面と口金とに圧迫され切断や変形を来す恐れがあることが指摘されている。

以上の事実によれば、引用考案のような小型の円形管状のヒューズは、従来からチップヒューズとして一般的に使用されてきており、また、本願考案と引用考案は、ともに可溶体の破断等の防止を目的とするものであって、その技術課題を共通するものと認められる。

したがって、引用考案の円形管状のヒューズに関する一般的技術を、技術課題の共通する本願考案のようなチップヒューズに転用することは、当業者であればきわめて容易に想起できることということができ、これと同旨の審決の判断(審決書7頁2~7行)に誤りはない。

(2)  角柱体の形状を有するチップヒューズが周知であること及びプリント基板面実装用チップ部品において、面実装されるための平らな4つの側面を導電性端子が有する点が周知であること(審決書7頁8行~8頁2行)は、いずれも当事者間に争いがなく、審決が周知技術であるとして提示した実願昭57-51516号(実開昭58-155823号)のマイクロフィルム(甲第9号証)、特開昭56-153643号公報(甲第10号証)、実願昭59-274号(実開昭60-113667号)のマイクロフィルム(甲第11号証)、実願昭53-28981号(実開昭54-131946号)のマイクロフィルム(甲第12号証)によれば、上記の導電性端子が平らな4つの側面を有するという周知の構成は、チップヒューズをプリント基板に装着する上で、作業を容易とし、その電気的、機械的接触を確実にするために考案されたものと認められる。

そうすると、引用考案の円筒形管ヒューズの技術を、プリント基板に装着されるチップヒューズに転用するに当たり、装着の容易性、確実性の観点から上記周知技術を採用して、導電性端子を平らな4つの側面を有する構成とし、それに伴い同じく周知技術によってヒューズ本体を角柱体形状とすることは、いずれも当業者がきわめて容易に採用し得るものと認められ、このことは、原告の主張するような技術課題の有無に左右されるものではないことが明らかである。

したがって、このように構成することに格別の困難性は認められないとした審決の判断(審決書8頁3~11行)に誤りはない。

3  取消事由3(相違点(3)についての判断の誤り)について

(1)  本願考案と引用考案とが、審決認定の相違点(3)のとおり、「本願考案では、可溶体の各端が本体の両端面に沿って折り曲げられ、導電性端子部が本体に嵌挿されたとき、本体の両端面と導電性端子部の凹部の底面間で可溶体の端を機械的に固定しかつ自身と電気的に接続し、さらに前記可溶体の各端の機械的に固定される部分が所与の長さを有するように、前記両端面が前記両端面上の前記切欠き凹部の縁部と前記両端面上の前記孔の縁部との間に所与の幅を有するのに対し、上記引用例1(注、引用考案)では、可溶体の各端が、本体の両端面で前記溝部に連通するように設けられた可溶体溝に沿って折り曲げられ、導電性端子部が本体に嵌挿されたとき、半田を介して可溶体の各端と導電性端子部とが電気的に接続する点」で相違する(審決書6頁5~18行)ことは、当事者間に争いがない。

(2)  ところで、審決認定のとおり、「一般的には、管体端面と口金の凹部底面間で可溶体の端を圧接し機械的に固定しかつ電気的に接続するのが慣用技術である」(審決書8頁16~19行)ことは、当事者間に争いがなく、この事実によれば、本願考案の上記「可溶体の各端が本体の両端面に沿って折り曲げられ、導電性端子部が本体に嵌挿されたとき、本体の両端面と導電性端子部の凹部の底面間で可溶体の端を機械的に固定しかつ自身と電気的に接続し」との構成が、上記慣用技術の構成と異ならないことは明らかである。そうである以上、上記相違点(3)に係る引用考案の構成に替えて、上記慣用技術を採用し、本願考案の構成とすることは、当業者にとってきわめて容易に推考できることと認められる。

原告は、引用考案においては、可溶体引出し溝a(可溶体溝)、はんだ溜りb、可溶体通し溝cを有することを特徴としているのであるから、可溶体引出し溝a(可溶体溝)を省略することは引用考案の技術内容を恣意的に歪めるものであって許されないと主張する。

しかし、引用考案において、はんだ溜りb、可溶体通し溝cとともに、可溶体引出し溝a(可溶体溝)からなる構成を採用したのは、引用例(甲第5号証)の「はんだ溜りb部は実施例に示す如く管体端面より内側に向って広がっており、該はんだ溜りb部に溶融充填されるはんだは可溶体3を固着することは勿論であるが口金内面に溶着することにより管体1の周面において口金2の軸方向及び回転移動を係止せしめ、口金と管体及び可溶体は確実に固定することが可能となる」(同号証明細書2頁17行~3頁3行)との記載及び図面第2図が示すように、可溶体の各端が固定され電気的に接続される部位が管体の端部周面と口金内面であることを前提としたものである。これに対し、上記慣用技術及びこれを採用した本願考案において、可溶体の各端が固定され電気的に接続される部位は、「本体の両端面と導電性端子部の凹部の底面間」であり、両者は、可溶体の各端が固定され電気的に接続される部位が異なることが認められる。そして、上記慣用技術の構成を採用し、本願考案の「本体の両端面と導電性端子部の凹部の底面間で可溶体の端を機械的に固定しかつ自身と電気的に接続し」ようとする場合に、引用考案の可溶体引出し溝a(可溶体溝)を設けると、その機械的固定及び電気的接続の目的に反する結果が生ずるおそれがあることは、当業者にとって自明のことと認められる。そうすると、上記慣用技術を採用し本願考案の構成とする場合に、引用考案の可溶体引出し溝a(可溶体溝)を省略することに想到することは、当業者にとってきわめて容易にできることというべきである。

したがって、審決が、引用考案の「ヒューズにおいて、前述の慣用技術に従って、管体端面の可溶体溝を省略し、本願考案のように管体端面と口金の凹部底面間で可溶体の端を圧接し機械的に固定しかつ電気的に接続するよう構成することに格別な困難性は認められない。」(審決書9頁5~10行)と判断したことに誤りはない。

(3)  原告は、引用考案の可溶体引出し溝a(可溶体溝)を省略したはんだ溜りb及び可溶体通し溝cは、本願考案の切欠き凹部にはならない旨主張する。

しかし、引用考案の「溝部」が本願考案の「切欠き凹部」に相当すること(審決書5頁1~3行)は、当事者間に争いがなく、本願明細書(甲第2~第4号証)の「もし切欠き凹部がない場合、角柱本体外周面と口金内壁面との間に挟まれた可溶体が口金を角柱本体にはめこむ際外周面と口金内壁面との間の摩擦において外方向へ引張られ、可溶体が伸びたり引きち切られたりし溶断特性を変化させたり、可溶体の断線等の事故を起したりすることになる。しかし、本考案は端面の切欠き凹部の一箇所から可溶体を外部へ引き出すものであり、可溶体に無理な力を加えるものではなく安定した溶断特性を得る効果を有している。」(甲第2号証明細書4頁12行~5頁2行)との記載と、引用例(甲第5号証)が、従来技術の欠点として、「可溶体は管体端面と口金とに圧迫され切断や変形を来す恐れがあり、更にはめあい隙間過大による口金の接着不良の可能性が大である」(同号証明細書2頁2~4行)ことを指摘し、「本考案は上記の欠点を除去し、常に安定した品質のヒューズを製作するために考案されたものである。・・・管体1の両端には、第1図に示す如く可溶体3の通る溝a及びcが設けられており、可溶体3は該可溶体溝a部にて引出し埋設するもので、口金嵌挿の際に支障を来たす事がなく、口金と管体との間には余分な隙間を必要としない。」(同2頁5~17行)と記載していることによれば、引用考案の「溝部」のはんだ溜まりbと可溶体通し溝cの構成は、本願考案の「切り欠き凹部」と同等の機能を果たすことが明らかである。したがって、原告の上記主張は採用できない。

原告は、また、引用考案のような円筒形のヒューズでは、管体の肉厚は変わらず、可溶体は口金と本体との間で一点で挟持されているから、本願考案における「所与の幅」は開示されていないと主張する。

しかしながら、管体端面と口金の凹部底面間で直接可溶体の端を圧接するという従来技術の構成においては、管体側面上に形成される可溶体を埋設するための溝の縁部と端面上の孔の縁部との間に、可溶体の端を圧接しこれを固定・接続するために一定の幅が必要とされることは明らかであり、引用考案の前示相違点(3)に係る構成に替えて、この従来技術を採用し、引用考案の可溶体引出し溝a(可溶体溝)を省略した場合、この「一定の幅」が本願考案における「所与の幅」と格別異ならないことは明らかである。

原告の上記主張は採用できず、審決の相違点(3)についての判断は、結局のところ正当というべきである。

4  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成4年審判第5647号

審決

東京都港区三田3丁目11番36号 三田日東ダイビル

請求人 エス・オー・シー株式会社

東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅法律特許事務所

代理人弁理士 湯浅恭三

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206号 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 社本一夫

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 今井庄亮

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 増井忠弐

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 粟田忠彦

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 小林泰

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 田中英夫

昭和62年実用新案登録願第149330号「チップヒューズ」拒絶査定に対する審判事件(平成1年4月7日出願公開、実開平1-56135)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

理由

(手続の経緯、本願考案の要旨)

本願は、昭和62年10月1日の出願であって、その考案の要旨は、補正された明細書および図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの

「耐熱絶縁材料から成り、角柱体の形状を有し、その長手方向の両端面間を貫通する孔を有し、前記両端面に接しかつ互いに対向する側面上の対角線上の各々の位置に切り欠き凹部が形成されている本体と、

前記孔に対角線状に架張される可溶体であって、その各端が前記両端面に沿って折り曲げられかつ前記凹部に係止されている可溶体と、

角形形状の前記両端面に嵌挿されるように断面形状が前記両端面の角形形状と実質的に同一である凹部を有し、嵌挿されたとき前記両端面と前記凹部の底面間で前記可溶体の前記端を機械的に固定しかつ自身と電気的に接続する導電性端子部であって、プリント基盤に対して面実装されるために設けられた4つの平らな側面を、導電性端子部が前記本体に嵌挿された状態における前記本体の長手方向に沿って有する導電性端子部と、

を備え、かつ前記可溶体の各端で前記本体の各端面と前記導電性端子の凹部の底面間で機械的に固定される部分が所与の長さを有するように、前記両端面が前記両端面上の前記切欠き凹部の縁部と前記両端面上の前記孔の縁部との間に所与の幅を有する

ことを特徴とするチップヒューズ。」

にあるものと認める。

(引用例)

これに対し、原査定の拒絶の理由に引用した実願昭49-33639号(実開昭50-123830号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という)には、円筒形管ヒューズの考案が記載されているが、ヒューズの管体の材料は原理上耐熱絶縁材料であることは自明であるので、結局、前記引用例1には、

「耐熱絶縁材料から成り、円柱体の形状を有し、その長手方向の両端面間を貫通する孔を有し、前記両端面に接しかつ側面上の対角線上の位置に溝部が形成されている管体と、

前記孔に対角線状に架張される可溶体であって、その各端が、前記両端面で前記溝部に連通するように設けられた可溶体溝に沿って折り曲げられかつ前記溝部に係止されている可溶体と、

円形形状の前記両端面に嵌挿されるように断面形状が前記両端面の円形形状と実質的に同一である凹部を有し、嵌挿されたとき半田を介して前記可溶体の前記端と電気的に接続する口金であって、前記管体に嵌挿された状態における前記管体の長手方向に沿って側面を有する口金と、

を備えた円筒形管ヒューズ。」

が記載されていると認められる。

(対比)

そこで、本願考案と前記引用例1記載のものとを対比すると、本願考案における「本体」、「切り欠き凹部」、「導電性端子部」は、それぞれ前記引用例1の「管体」、「溝部」、「口金」に相当することから、両者は、

「耐熱絶縁材料から成り、柱状体の形状を有し、その長手方向の両端面間を貫通する孔を有し、前記両端面に接しかつ側面上の対角線上の位置に切り欠き凹部が形成されている本体と、

前記孔に対角線状に架張される可溶体であって、その各端が前記両端面で折り曲げられかつ前記切り欠き凹部に係止されている可溶体と、

前記両端面に嵌挿されるように断面形状が前記両端面の形状と実質的に同一である凹部を有し、前記本体に嵌挿された状態における前記本体の長手方向に沿って側面を有する導電性端子部と、

を備えたヒューズ。」

の点で一致するものの、次の各点で相違する。

(1)本願考案が、チップヒューズであるのに対し、上記引用例1は、円筒形管ヒューズである点。

(2)本願考案では、本体が角柱体であり、導電性端子部が、プリント基板に対して面実装されるために設けられた4つの平らな側面を有するのに対し、前記引用例1では、本体が円柱体であり、導電性端子部が平らな側面を有していない点。

(3)本願考案では、可溶体の各端が本体の両端面に沿って折り曲げられ、導電性端子部が本体に嵌挿されたとき、本体の両端面と導電性端子部の凹部の底面間で可溶体の端を機械的に固定しかつ自身と電気的に接続し、さらに前記可溶体の各端の機械的に固定される部分が所与の長さを有するように、前記両端面が前記両端面上の前記切欠き凹部の縁部と前記両端面上の前記孔の縁部との間に所与の幅を有するのに対し、上記引用例1では、可溶体の各端が、本体の両端面で前記溝部に連通するように設けられた可溶体溝に沿って折り曲げられ、導電性端子部が本体に嵌挿されたとき、半田を介して可溶体の各端と導電性端子部とが電気的に接続する点。

(当審の判断)

そこで、これら相違点について検討を加える。

まず前記(1)(2)の相違点について、円筒形管ヒューズとチップヒューズとはいずれも代表的な型の小型ヒューズであり、小型ヒューズとして同一の範ちゅうに属することを考慮すると、円筒形ヒューズの技術をチップヒューズに転用することは、極めて容易に想起できることである。

一方、角柱体の形状を有するチップヒューズは、周知であり(例えば、実願昭57-86645号(実開昭59-86645号)のマイクロフィルム、特開昭60-221923号公報、特開昭62-172628号公報参照)、また、プリント基板面実装用チップ部品において、面実装されるための平らな4つの側面を導電性端子が有する点は、周知である(例えば、査定時に引用された実願昭57-51516号(実開昭58-155823号)のマイクロフィルムの他、特開昭56-153643号公報、実願昭59-274号(実開昭60-113667号)のマイクロフィルム第1図、実願昭53-28981号(実開昭54-131946号)のマイクロフィルム第3、4図参照)。

そして、チップヒューズもまたプリント基板面実装用チップ部品の一種であって装着の容易性についての技術的課題は共通であることを考慮すると、前記引用例1に記載されたヒューズの構成をチップヒューズに転用するにあたり、前述の各周知技術を採用して、本体が角柱体形状を有し、導電性端子がプリント基板に対して面実装されるための平らな4つの側面を有するチップヒューズを構成することに格別な困難性は認められない。

次に、前記(3)の相違点について、前記引用例1に記載されたヒューズでは、特に、可溶体が管体端面と口金とに圧迫され切断や変形を来たすことを防ぐため、可溶体を管体端面の可溶体溝にて引き出し埋設する構成としているが、一般的には、管体端面と口金の凹部底面間で可溶体の端を圧接し機械的に固定しかつ電気的に接続するのが慣用技術である(例えば、原査定の拒絶の理由に引用した特開昭50-2152号公報の他、実願昭47-93912号(実開昭49-50728号)のマイクロフィルム、実願昭51-75555号(実開昭52-165243号)のマイクロフィルム、特公昭59-6466号公報参照)。

してみれば、前記引用例1に記載されたヒューズにおいて、前述の慣用技術に従って、管体端面の可溶体溝を省略し、本願考案のように管体端面と口金の凹部底面間で可溶体の端を圧接し機械的に固定しかつ電気的に接続するよう構成することに格別な困難性は認められない。ここで、前記引用例1に記載されたヒューズの管体端面の可溶体溝を省略した場合、同引用例1の第2図を参照すると、本体の両端面上の溝部の縁部と両端面上の孔の縁部との間に一定の幅が存在することになるので、本体の各端面と導電性端子の凹部の底面間に固定される可溶体の端部が一定の長さを有することは明らかである。(なお、両端面が前記両端面上の切欠き凹部の縁部と前記両端面上の孔の縁部との間に所与の幅を有する点は、出願当初の図面第2図、第3図のみを根拠として、平成4年5月1日付けの手続補正により、新たに実用新案登録請求の範囲に加えられた事項であるが、特に図面第2図を参照すると、前記「所与の幅」と前述の「一定の幅」との間に差異は認められない。)

更に、前述の相違する各点(1)(2)(3)を併せ考えても、格別顕著な効果は認められない。

以上検討すると、前述した本願考案が前記引用例1と相違する点は、当業者が周知技術、慣用技術に従って、極めて容易に想起できた範囲内の事項であることは明らかである。

(むすび)

したがって、本願考案は、本願出願前日本国内において頒布されたことが明らかな引用例に記載された事項及び周知慣用の技術に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年3月18日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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